大判例

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福岡高等裁判所 昭和27年(う)1136号・昭27年(う)1135号 判決

農業協同組合法第九十九条第一項にいわゆる投機取引は、価格の変動により利益を得る目的を以てする動産、不動産、若しくは有価証券の有償取得を目的とする取引、換言すれば、後日高価に販売する意思で予め安価に購入する売買を指称し、株式取引所における差金取引乃至は為替相場の変動を利用する外国為替の売買等の非現物売買に限定すべきものでないと解することは立法の趣旨に適応する所以といわなければならない。即ち、投機取引なる意義は経済学上においても前叙のごとく解されているのみならず農業協同組合法(以下農協法と略称する)第三条、第四条、第六条、第十条、第十三条等の規定によれば農業協同組合(以下組合と略称する)はその行う事業によつて組合員のため最大の奉仕をすることを目的とし、営利を目的としてその事業を行うことのできない公益法人で、その行うべき事業は限定されており、組合の財産は組合員たる農民の零細な出資によるものであるため、公共団体からの営業税を免ぜられていることを認め得ると共に、組合が価格の変動により利益を得る目的を以て、動産、不動産若しくは有価証券を取得するため組合財産を処分することは、これが現物取引であると、否とを問わず組合の事業範囲外の取引であることを認めることができる。しかして、農協法第九十五条の二第一項によれば組合が同法第十条に規定する事業以外の事業を行つたときは、裁判所は、行政庁の申立により当該組合の解散を命ずることができるので、組合の役員が前掲所為に出たときは往々にして組合の存立を危殆に陥らしめるものであることを容易に推知することができる。以上の各事実に農協法第九十九条第一項は「組合の役員が、如何なる名義を以てするを問わず、組合の事業の範囲外において貸付をし、若しくは手形割引をし、又は投機取引のために組合の財産を処分したときは云々」と規定し、組合の事業の範囲外の貸付、及び農協法上当然組合の事業の範囲外の取引と認められる与信行為たる手形割引と共に投機取引を同罪の構成要件として規定していること自体を併せ推考すると、同法第九十九条第一項にいわゆる投機取引とは冒頭に説示するごとく、価格の変動により利益を得る目的を以てする動産、不動産若しくは有価証券の有償取得を目的とする取引を指称し、所論のごとく株式取引所における差金取引乃至は為替相場の変動を利用する外国為替の非現物売買等に限局すべきいわれのないことを了解することができるであろう。若しそれ前掲投機取引を所論のごとく解するにおいては、組合の役員が恣意に価格の変動により利益を得る目的を以て動産、不動産若しくは有体動産の現場を組合財産を以て買受け組合の存立を危殆に頻せしめるがごとき所為に出でても農協法第九十九条第一項の取締の対象の埓外におかれ、延いては組合をして解散の止むなきに到るともこれを放任せざるを得ない結果を招来するに至るであろう。果して然らば農協法第九十九条第一項にいわゆる投機取引は前記説示のごとく解するを相当とし、これを所論のごとき非現物取引に限定すべきものとするは畢竟農協法の精神に反するものといわなければならない。論旨は(一)投機取引を前示のごとく解するならば農協法第九十九条第一項は「投機取引」と規定せず「営利取引」と規定すべきものである旨主張するが、同条は営利取引の全部を取締の対象とするものでなく、営利取引中の投機取引を取締の対象としているのであつて、所論は営利取引が投機取引より、より広い概念であることを看過、若しくは誤解したものといわなければならない。(二)次に原判文中の「思惑取引」はその意義至極明確を欠き被告人の取引は思惑取引にあたらないとの論旨につき案ずるに原判示第一事実をその挙示の証拠と対照すれば、原判文の「思惑取引」とはとりもなおさず、被告人田中健康が共同被告人田中較一と共謀して価格の変動により利益を得る目的を以て判示のごとき取引をしようと企てたことを表示したものであることを認めるにかたくはないのでその意義必ずしも明確を欠くものということはできない。しかも原判決の挙示した関係証拠を綜合すれば原判示第一の事実を優に認定するに足り記録を調査しても右事実認定に誤の存することを発見することができない。

(三)更に論旨は本件取引は合法性があると主張するが、原判示第一の被告人の所為が所論のごとく農協法第十条所定の適法な附帯事業であることを認めしめる資料は全く存しない。(四)なお所論は本件取引による損害は品質粗悪の為と詐欺によるものであると主張するが、本件取引の損害の有無は農協法第九十五条第一項違反の罪の成否に何等の影響を及ぼすものではない。以上説示のごとく判示第一の事実はまさしく農協法第九十九条第一項違反罪を構成することが明かであるから、原判示第一事実の成立を認め、これを原判示法令に問擬し、且つ叙上説明と同旨の理由により原審弁護人の投機取引に対する主張を排斥した原判決はまことに正当で、原判決には所論のごとき違法は毫も存しないので論旨は理由がない。

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